フィシスの波文

遠く、深く、文様に導かれた旅。

京都に400年受け継がれる唐紙文様を起点に、
太古から文様にかたどられたフィシス(あるがままの自然)を辿る。
時空を超えて、そのあわいに見えてくるものはー

フィシスと内面をつなぐ中間地点に、美が発生する-中沢新一

ストーリー

京都の唐紙工房「唐長」は、和紙に文様を手摺りする唐紙を400年間継承してきた。その手仕事の現場から、本作は始まる。
植物文、雲や星を表す天象文、渦巻きや波文などが刻まれた江戸時代の板木に、泥絵具や雲母を載せ、和紙に文様を写していく。その反復によって生み出される唐紙の、息をのむような美しさ。あるがままの自然のかたち、動き、リズム、色合い。文様と、自然の「かたち」や「気配」をカメラは丁寧に追っていく。

葵祭や祇園祭、寺社や茶事の空間に息づく文様。1万年余り前のイタリアの線刻画や古代ローマの聖堂を飾るモザイク。北海道のアイヌの暮らしに受け継がれている文様。まるで文様に導かれるように、時空を超えて旅は繋がっていく。

エルメスのアーティスティック・ディレクター、デザイナーの皆川明(ミナ ペルホネン)、美術家の戸村浩は、自然からのインスピレーションと、自らの創作について真摯に語る。密やかに行われるアイヌの儀式や山の神への祈りは、人と自然と文様との関係性を、より鮮明に浮きあがらせる。
小さな京都の工房から多層的に拡がる文様を巡る旅の記録が、私たちが忘れてしまった大切な感覚、全人類の古層とのつながりを思い出させてくれる。

予告編

最新情報

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上映スケジュール

※上映時間および詳細は各劇場へお問合せください。

Director’ Statement

写真:茂木綾子

唐長の唐紙文様はとてもシンプルで洗練され、大変心落ち着くものです。また、世界中の様々な暮らしの中にある文様は、ずっとそこにありながら、実はとても不思議な存在に感じられます。きっと遠い昔から、人が自然を神々として捉え、その美と力に近づこうと文様の原型が生まれたのではないでしょうか。私も同様に、自然の完璧な美に常に感動し、太古から続く自然を愛する人々の営みに対する共感とともに、この作品を制作しました。

監督・撮影・編集/茂木 綾子 Ayako Mogi
写真家、映像作家。92 年キャノン写真新世紀荒木賞受賞。97 年よりミュンヘン、06 年よりスイスのラ・コルビエールにて活動。09 年淡路島へ移住し、アーティストコミュニティ「ノマド村」の活動を展開。写真集『travelling tree』(赤々舎)、映画『島の色 静かな声』(2008)、『幸福は日々の中に。』(2015)、『zen for nothing』(2015)など。

Producer’ Statement

写真:河合 早苗

1990年、ミラノの設計事務所の勤務を終えて、京都の唐紙屋・唐長の文様と出会ったのがこの映画製作の始まりです。初めて見る650もの唐紙は息を呑むほど美しく、同時にどこか異国の香りを放っていました。ケルト文様やイタリアの古代遺跡の文様などを思い起こしたのです。この文様はどこから来たのか、なぜユーラシア大陸の東の果ての京都に、これほどまでの文様が400年間残っているのか。
この謎を追っていけば、人類の創造の源流にたどり着けるかもしれない。文様の不思議に惹かれ、その謎を追い、記録に残したいと思ったのが映画製作のきっかけです。
言葉、国境、文化を軽々と越えていく文様のように、あらゆるボーダーを超えて映画を通した出会いの軌跡が、美しい文様となって世界に広がっていくことを願っています。

河合 早苗 プロデューサー
映画プロデューサー。SASSO CO., LTD.代表取締役 。インテリア・プロダクトデザイナー
Michele De Lucchi 建築設計事務所(イタリア・ミラノ)に勤務、STUDIO SANAE KAWAI 設⽴(プロダクトデザイン、店舗・住宅設計)「京都、唐紙屋⻑右衛⾨の⼿仕事」 (NHK出版 ⽣活⼈新書) 企画参加。SASSO CO., LTD.を設⽴し、映像・デジタルコンテンツの企画製作・配給、出版・セミナーの企画を⾏う。古代から現代まで世界各国の「⽂様」をテーマにしたドキュメンタリー映画「フィシスの波⽂」を企画・製作。

出演者

写真:千田 堅吉

千田 堅吉 唐長十一代目

1942年京都府生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、同年、化学商社に入社。1970年、唐長に入店。1976年、唐長十一代目を継承。以後54年間、唐紙製作の修行。日本伝統文化振興賞受賞。国の撰定保存技術保持者認定。旭日双光章受章。著書に「京都、唐紙屋長右衛門の手仕事」ほか。

写真:千田 郁子

千田 郁子 唐長

唐長十一代目となった夫・堅吉とともに唐紙製作に携わりながら「唐紙のある暮らし」をテーマに京都新聞夕刊へ連載執筆。唐長三条サロンや唐長IKUKOアトリエショップを開設。NHKプレミアム「唐紙ー千年の文様の美」出演。婦人画報への特集記事掲載。著書に「唐長IKUKO」

写真:鶴岡 真弓

鶴岡 真弓 芸術人類学者

多摩美術大学名誉教授。早稲田大学大学院修了。ダブリン大学トリニティ・カレッジに留学。立命館大学・多摩美術大学教授芸術人類学研究所所長、同美術館館長などを歴任。ケルト芸術文明史。『ケルト/装飾的思考』『ケルト美術』『装飾の神話学』『装飾する魂』他著訳書多数。

ピエール=アレクシィ・デュマ エルメス アーティスティック・ディレクター

エルメス家3代目社長エミール・エルメスの曾孫。エルメス家の6世代目にあたる。アメリカのブラウン大学でビジュアルアートを専攻し、1992年にエルメス・グループに入社。2002年ジャン=ルイ・デュマの下でアーティスティック・ディレクター代理に就任。2005年より、エルメスのアーティスティック・ディレクション担当エグゼクティブヴァイスプレジデントに就任。2016年1月には、パリ装飾美術館の理事長に就任。

写真:戸村 浩

戸村 浩 美術家

財団法人柳工業デザイン研究会の柳宗理に師事。同研究会を退社後、美術家として自由活動に入る。著書に「基本形態の構造」「次元の中の形たち」ほか。’60年頃から一貫して数理的原理に基づいた作品を制作しており、現在もなお精力的に制作活動をつづけている。

写真:皆川 明

皆川 明 デザイナー/ minä perhonen 創設者

1995年に「minä perhonen」 の前身である「minä」を設立。ハンドドローイングを主とする手作業の図案によるテキスタイルデザインを中心に衣服をはじめ、家具や器、店舗や宿の空間をディレクション。海外のテキスタイルブランドへのデザイン提供。新聞・雑誌の挿画なども手掛ける。

写真:門別 徳司

門別 徳司 アイヌ猟師

門別町(現在の日高町)出身、父の影響でアイヌ文化に触れ、 仲間とともに狩猟や解体について学び始める。2012年に銃猟 免許を取得。平取アイヌ文化保存会にて入会し、古式舞踊や生 活儀礼部長として儀式儀礼に積極的に取り組み、アイヌとして の狩猟文化、感謝、祈りを次世代へつなげる活動をしている。

写真:貝澤 貢男

貝澤 貢男 アイヌ伝統工芸師

北海道平取町生まれ。木彫り職人として活躍。NHK制作 映像「ユーカラの世界」への出演、民族文化映像研究所所 員。アイヌ工芸技術の伝承に尽力。長年の活動が評価され アイヌ民族文化財団(札幌)2020年度アイヌ文化賞に全道 で唯一選ばれた。本作撮影の10ヶ月後、2023年逝去。

スタッフ

写真:ウエヤマトモコ

ウエヤマトモコ 録音・音声編集

音響作家, 株式会社asyl 代表取締役, 名古屋造形大学情報表現領域非常勤講師, 愛知県立芸術大学メディア映像専攻 スタジオ職員
情報科学芸術大学院大学(IAMAS)にてメディアアートを学んだ後、サウンドアーティストとして活動。自治体の文化プログラムやアーツカウンシル等と協働したワークショップを継続して開催。 聴覚と視覚(音と映像)の構築方法によって顕になる現実と虚構に着目し、サウンドインスタレーション、フィールドレコーディング、ワークショップ、映画、演劇、オペラ等のサウンドプロダクションを手がけながら、複数の大学でメディア芸術教育に携わる。近年の作品や録音に、港まちまち『音(ね)に浮かぶ 』(2023/港まちづくり協議), 崟利子監督『じぶん、まる! いっぽのはなし』(2023/神戸映画資料館)

写真:フレッド・フリス

フレッド・フリス 音楽・作曲・演奏

イギリス、サセックス州ヒースフィールド出身の音楽家、作曲家、インプロヴァイザー。主にギタリストとして知られるが、ヴァイオリン、キーボード、ベース等も演奏するマルチプレイヤーでもある。1990年に、ドキュメンタリー映画『ステップ・アクロス・ザ・ボーダー』公開。フレッド・フリスが世界を巡り、人種や国籍を超えて様々なミュージシャンと交流する様子を描いた作品で、第3回ヨーロッパ映画賞ではSpecial Mention賞に選ばれる。1999年よりサンフランシスコのミルズ・カレッジの教授を務めた。日本のアーティストとの交流も多く、1981年に突然段ボール、1984年にはドラマーの土取利行と共演し、近藤等則の1985年の作品『China Boogie』にギターで参加。2009年には、大友良英が音楽を担当したNHKドラマスペシャル『白洲次郎』のサウンドトラックに参加している。

おもな撮影地を辿る

唐長|京都

寛永元年(1624)創業、二代目より唐紙屋長右衛門を名乗り、京都で400年続く「京からかみ唐長」。日本で唯一となった手摺りによる唐紙作りの現場を撮影した。代々受け継いできた板木の文様は約650種。地色と文様の組み合わせで表す唐長唐紙は、桂離宮、二条城、寺社などの文化財、茶室や町屋ほか、現代に至るまで様々な空間を彩っている。

写真:唐長

黒谷和紙の里|京都府綾部市

唐長唐紙に用いられる和紙のうち、京都府綾部市黒谷町周辺地域で良質な楮(こうぞ)を原料に手漉きで作られているのが、黒谷和紙。強くて丈夫で長期保存に適している。自然豊かな谷間の地、黒谷川の清流により800年にわたって紙作りが行われてきた里で、楮の栽培、処理から加工に至るまでほぼ手作業で行われる工程を、季節と共に迫った。

写真:黒谷和紙の里

南叡山 養源院|京都

豊臣秀吉側室の淀殿の父・浅井長政の菩提を弔うため建立され、火災焼失、1621年に再建、徳川家の菩提所となった寺院。俵屋宗達による杉戸絵「白象図」、本堂襖絵「岩に老松図」で知られる。本堂襖に張られた幕末のものとされる「丸龍」文の唐紙は、唐長所有の板木。2020年、唐長十一代目によって「天平大雲」文の唐紙が納められる過程を撮影。

写真:南叡山 養源院

鷲峰山 高台寺|京都

豊臣秀吉の正妻・高台院が京都東山に開いた高台寺に、秀吉所用の「鳥獣文様綴織陣羽織」が伝来する。南蛮船によってもたらされたペルシア絨毯で仕立てた陣羽織。ライオンと鹿が描かれた動物闘争文は南と北の文明の出会い、生命の再生を表す非常にシンボリックな文様ゆえ身につけて力を得ようとしたのだ、という鶴岡教授の語りと共に撮影。

西村絹織物|鹿児島県奄美大島

奄美の草木を染料にした大島紬の作り手。古来、大島紬の柄には奄美大島の自然の形がそのまま取り入れられているが、京都・西陣の老舗「となみ織物」とのコラボレーションで、唐長文様のオリジナル大島紬を製作している。柑橘類たんかんの枝で糸を染め、「南蛮七宝」文の反物を製織する丹念な作業を迫った。

フゴッペ洞窟|北海道余市町

余市町栄町に位置する続縄文文化の遺跡で、狩猟・採集暮らしの人々が祭祀や儀礼を行った場所と考えられる。日本で2カ所のみ発見されている洞窟壁画のひとつ。約7メートルの岩壁に人物、動物の仮装をした人物、舟、四足獣、魚など800を超えるかたちが刻まれていて、千数百年前の人々の祈りを感じる。

アイヌ集落|北海道二風谷

アイヌ文化発祥の地、沙流郡平取町二風谷地区。アイヌ神話では、二風谷にカムイ(神)が降り立ち、人々に生活道具の作り方や文化を教えたとされる。各集落に共同体の特徴を表すアイヌ文様が伝承されていて、衣装に施す刺繍、刀の装具や工芸品の木彫などに見られる。それらを身につけてカムイへ捧げる舞や儀式を撮影させていただいた。

写真:アイヌ集落

カモニカ渓谷の岩絵群|ブレーシャ,イタリア

イタリア北部アルプス山麓の渓谷、約70㎞にわたる岩盤に14万点あまりの線刻画が点在する。1万年前(紀元前8世紀)から8千年間に、カムニ族によって描かれたと推定されている。文字が伝わって以降、岩絵の存在は忘れられていたが、1929年に発見され、1979年にユネスコ世界遺産登録。先史時代の慣習や発想を示すかたち、文様と言える。

写真:カモニカ渓谷

サンタ・マリア・イン・コスメディン聖堂|ローマ,イタリア

6世紀にローマに建てられた教会で、身廊などは8世紀に増築。「コスメディン」はコスモス(宇宙)、コスメ(美)の語源になったラテン語。聖堂の床は、宇宙の理である幾何学文様と色とりどりの輝石で作られたモザイクで覆われている。その意匠が、唐長の板木にある「輪宝」文によく似ていると唐長の千田夫妻は言う。

写真:サンタ・マリア・コスメディン聖堂

そのほか、京都/賀茂別雷神社(上賀茂神社)、因幡堂 平等寺、光悦寺、俵屋旅館、武者小路千家 官休庵、梁山泊(撮影後に閉店)、東京/銀座メゾンエルメス、ミナ ペルホネン マテリアーリなどに撮影のご協力をいただいた。

Credit

『フィシスの波文』
2023年/85分/日本/カラー・モノクロ/1.90:1/ステレオ

監督・撮影・編集:茂木綾子
出演:千田堅吉(唐長十一代目 唐紙屋長右衛門)
千田郁子(唐長)
鶴岡真弓(芸術人類学者)
ピエール=アレクシィ・デュマ(エルメス アーティスティック・ディレクター)
戸村 浩(美術家)
皆川 明(ミナ ペルホネン デザイナー)
門別徳司(アイヌ猟師)
貝澤貢男(アイヌ伝統工芸師)ほか
サウンド:ウエヤマトモコ
音楽:フレッド・フリス
タイトル考案:中沢新一(人類学者)
宣伝美術:須山悠里
プロデューサー:河合早苗
企画・製作・配給:SASSO CO., LTD.
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)、独立行政法人日本芸術文化振興会
©︎2023 SASSO CO., LTD.

コメント

みなさんは、明けの明星である金星の地球から見た軌道と、薔薇の花のかたちが相似形であることをご存じだったでしょうか。天なるものと地なるもの、この自然の中には美しい基層となる「かたち」があるようなのです。
どうもそれは誰が造ったというわけでもなく、この世界の深いところから「おのずから」生じてきているようです。
そして自然が生み出す物質の「かたち」、文様は僕たちの心を動かし惹きつけ、僕たち人間が作り出す事物の文様とも相似し響きあっています。夢想するに、フィシス(物質)もプシュケ(魂)も同じ自然が生み出すパターン、秩序の二つの側面なのでしょう。
このドキュメンタリーは人の手が作り出す文様を繊細に映し出します。しかしそれは人の魂と物質が未だ分かれる前の、あるいはその二つを架橋する見えざるコスモスをも透視しているのです。魂と物質の母体で生じ反復し流転する存在のおおもとを、この荒々しい時代に見つめることはとても大切なことだと僕は思っています。
鏡 リュウジ様  占星術研究家

『フィシスの波文』は、江戸初期から続く京都の唐長の唐紙、そしてそれを作る技を繊細な映像で捉えたものです。
レンズの眼は、肉眼では捉えられないような板木の陰影や絵具の盛り上がり、そして微細な手の動きを逃すことなく捉えます。さらに京都の唐長の文様から出発して、文様の人類史と言ってもいいような拡がりを見せていき、古今東西の人間が作ってきた文様を徹底的に美しい映像で私たちに示してくれます。
それを支えるのが、フレッド・フリスによるサウンドです。特に映画中盤の岩絵群に続いて中世の聖堂の内部にある装飾がモノクロームで写し出されていくシークエンスでは、ギターという楽器の可能性を極限まで追求してきた彼の紡ぎ出す音が、画面の漆黒と呼応するかのように、かつての人間たちが遺した文様あるいは生の徴を描出していきます。
この幻惑的な美しさは、観る者の身体に沁みとおっていくかのようです。この映画が、日本国内のみならず、ぜひ世界の人びとに見られることを心から望んでいます。
佐藤 守弘様  同志社大学文学部教授 視覚文化&メディア研究

映画「フィシスの波文」に魅了されました。
徹底的に余分なものを排除した演出と美しい映像。 映し出される様々な文様。その形を辿る旅から見えてくる世界との繋がり。文様が語る宇宙の概念。
過去から現在へ、そして未来へとつながっていく形の物語。
音楽は、音の一つひとつが、文様のように、小さな塊となって降り注いできます。映像と音に包まれながら、静かに零れてくるメッセージを感じることができます。日常で当たり前に見ていた形に、新しい魅力を発見することができます。
映画「フィシスの波文」、ぜひ多くの人に観ていただきたい作品です。私が得た感動を共有できたら嬉しいです。
茂野 雅道様  映画音楽家

決して多くを語らない登場人物から伝わるのは、濃密な気配である。
ときにそれは言葉より雄弁である。
本作はどこか懐かしい文様という反復した図形を写しながら、宇宙の神秘にまで辿り着こうとしているのではないか、答えなどでないというのに。
だからこそ我々はこのシンプルな文様に惹かれるのかもしれない。
天地、万物からなる途方もない物語を、ぜひ映画館で体感して欲しい。
「ひとつが動くとすべてが動く」(本編より)
この映画が動くことによって、どんな連鎖反応が起こるのか楽しみでならない。
佐藤 広一様  映画監督

映画「フィシスの波文」を拝見し、文様とは、この世界ができたときから地球上にあったものなのだと改めて実感しました。
唐長11代目当主・千田堅吉さんの本『京都、唐紙屋長右衛門の手仕事』を企画・編集した際、多大なご協力をいただいた河合早苗さんが、今回このようなすばらしい映画をプロデュースされたことに感無量です。
長年磨きぬいた職人の手による唐紙文様は、微妙な顔料の濃度やかすれ具合など、緻密に作られながらも二つ同じものはない貴重なものです。
ユーラシア大陸を横断する長い旅の果てに日本に到達した文様が、京都の水に磨かれ、洗練された唐紙文様となり、宮中や神社仏閣、市井の人々の暮らしを彩ってきた歴史。
大陸の西と東、アイルランドのケルト文化と日本の唐紙文様が結び合うダイナミズムに震えました。太古からつづく文様の息吹を感じ心に灯がともる体験が、多くの人に届きますよう祈っています。
三田村 美保様  株式会社NHK出版

唐紙文様の唐長さんが400年前の板木を手で撫でながら、摺る行為の映像から文様を巡る旅が始まる。
この映画をもし岡本太郎さんが観ていたら、どんなことを呟くだろう。きっとこんなことを述べたかもしれない。
「人間は悠久の昔から、瞬間瞬間に、限りない夢をひらきながらも生き続けて来た。生活の中のすべて ― 天を仰いでも、大地にふれても、樹、岩、水、動物。自然のあらゆるものから、さまざまのイマジネーションがわきおこり、それがやがて凝結すると、新しいイメージ、形が生み出されてくる。」(『藝術新潮』1978年7月号P33「宇宙を翔ぶ眼」 新潮社刊)
唐長の唐草文様は植物や波や雲など自然の形象が文様と化し、板木に込められている。唐とは異国という意味があり、三つ巴や法輪の文様は時空を超え中国、ペルシア、中近東、ヨーロッパのネットワークとなる。さらに水の波文から渦巻の文様はケルトの『ケルズの書』に繋がるだけでなく、古代の文様へと繋がる。
岡本太郎さんが雑誌『みづゑ』に「縄文土器論」を書いたとき、もう一つのタイトルは「四次元との対話」だ。縄文土器の文様も日々の営みから生まれた「人々に生命力」を与える形象なのだろう。
唐長のお二人は日々、400年前の650種類にも及ぶ板木から様々な文様を摺りながら、折々の季節の自然やそこから時空を超えた宇宙との「四次元の対話」を繰り返しているに違いない。
仲野 泰生様  京都場館長(元川崎市岡本太郎美術館学芸員)

唐長さんとは、となみ織物さんからのご縁にて以前作品でコラボレーションさせて頂きました。様々な文様の唐紙を拝見し、数種の唐紙を用いらせて頂き制作しました。
文様はそれぞれに長い歴史や意味があり、想いを伝える事のできるデザインであり、世界共通のモノなんだなと改めて感じています。
唐紙は規則正しく並ぶ文様であるのですが、ぬくもりも感じます。代々受け継がれている板木に、温度や湿度の変わる季節の中でその都度絵の具を調整され、紙の素材や色にあわせて文様を手摺りされている唐紙。人の手から生まれた事による自然と湧き出るあたたかさがあわさり、より周りに伝えたくなりどんどん数珠繋がりで広がっているように思います。
「思い入れをいれてはいけない」と千田堅吉さんのお言葉から、文様を後世に伝えられる強い意思が伝わってきます。
「文様・デザイン・意匠は聖なる印である」(鶴岡さんのお言葉)と仰られており、とても勉強になりこちらの映画を通してまた文様の見方が変わりました。
自然と調和しながら次々と生まれてくる映像や音、また京都のあらゆる伝統文化を通じて、美しい文様から届いてくるメッセージが心に響きます。
舟田 潤子様  銅版美術家

古来より人類は文様を作ってきました。
それは、日用品のアクセントになるだけでなく、時には時代を超えて使われ、遠くの文化圏にまで伝えられることもあります。何故これほど大事なのでしょう。
誰でもスマホで動画を撮る時代にあって、YouTubeともテレビ番組とも異なる手法をとったドキュメンタリー映画「フィシスの波文」。
その謎に、静かに、そしてゆっくりと迫っていきます。
劇場の大きなスクリーンに集中し、目を見開き、耳を澄ましていないと伝わらない何かがこの映画にあるように感じました。
多くの方がご覧になれる機会が生まれたら、本当にいいですね。
ジョー スズキ様 デザインプロディーサー/文筆家

メキシコ在住の彫刻家の矢作隆一です。このドキュメンタリー映画を観て、文様の中に壮大な時間が流れていることを知りました。
しかも時を超えた自然の摂理が反映されているのです。
おそらく日本人は生活空間に永遠の自然を文様として取り込んできたのでしょう。そして今でも作り手は一刻一刻と変化する自然を感じながら、自意識を消し何かに導かれるように唐紙を仕上げて行きます。
自然と一体となり出来上がった唐紙は、新たな波文を生み出す最初の一滴となるのだと思います。
矢作 隆一様  彫刻家/ベラクルス州立大学造形美術研究所研究員、神戸芸術工科大学客員教授

この映画は美しい映像と音楽にただ浸っている事を許さない。あぁ美しいなと、映画の世界に浸っている間に、日常のすぐ隣というか、日常に覆い被さっている別の階層に連れて行かれてしまう。それはロゴスの世界に生きていると忘れてしまいそうになる、自然そのものとしてのフィシスが、文様という半自然の状態で映画の中に散りばめられており、それが自分の内なる自然と呼応する。
そしてフィシスの波文に撫でられて、目を覚まし出した身体に、たくさんの活火山と、大陸プレートの継ぎ目に存在している、フィシスの肉体の上で暮らす様な日本において、決して忘れてはいけない感覚を、この映画は父性と母性の両方から届けてくれる。
まるで古代の洞窟儀礼のような、この映画の形をした何かは、現代に噴出した古代性の間欠泉。
丸裸になって湯あたり覚悟で観てほしい映画です。
相良 育弥様  株式会社くさかんむり代表取締役/茅葺き職人

「フィシスの波文」はドキュメンタリーでもなく教育映画でもない。
前者なら前面に据えられる人間や出来事は後景に退いて、その人間が多様な時代や地域、場面で産み出してきた文様(パターン)が主人公となる。
人間的ドラマを期待するなら失望するかも知れない。
しかしさまざまなパターンに内在するドラマ、つまり外的実在である形象のたてる波文が、そのまま人の心の内なる波文であるという感情的な真実だけを軸に、飛躍し、裂けめをこえていく映像はとてもスリリングだ。
後者ならミステリーの結末のように用意されるはずの専門家による結論はあらかじめなく、不在の結末をめぐる制作者の執拗な問いだけが純粋な波動のように伝わってくる映画だ。
数学者であり建築家だったC・アレグザンダーの予言者的文体による著作『時を超えた建設への道』を思い出した。
大倉 宏様 美術評論家

2023秋。文様の映画を作った、上映活動を始める、と熱く語る女性に出会った。「フィシスの波文」のプロデューサー河合早苗さんだった。
私は子供の頃は手芸部。プロヴァンサルプリントの仕事をしたことがあったり、着物好きの母の影響があったり、要は布、柄フェチ。にいがた映画塾という市民活動をしていることもあり、自然と話が合った。
知人の絨毯屋さんやギャラリーに紹介しようとお連れしては、文様で盛り上がる人たちを見た。文様は、人にエネルギーを与える。
映画は普遍的で人間の精神的な世界に誘われるロードムービーに仕上がっていた。
文様は人の暮らしに使われて生きる。映画はスクリーンへ映されて生きる。
時に映画は、文様のように脳内に反復し、心に刻まれる。この映画が国を越え、時を越え、スクリーンへ映され続けてほしい。
五十嵐 奈穂子様  市民団体にいがた映画塾運営委員

映画が誕生して120年。35mmフィルムからデジタルに代って10数年。撮影機材も、映写機も変化し続けています。
デジタルに代って、製作本数が、格段に増えました。観方も、ネットフリックス等、何処でも、何時でも容易に機会が拡がりました。
従って、劇場で公開する作品数が限定されます。その難しさに固執して、「フィシスの波文」を後一歩で公開する所迄持って来た方がいます。河合早苗さんです。
新潟まで足を運び「シネ・ウインド」の狭い扉をコジアケました。新潟高校の小生のズット後輩らしく、部活は、フェンシング部。男子生徒の憧れの的。突きの名手。前進しか無く、後退はしない。
混迷した世界を一撃するに、原始の言葉の無い人間社会では、文様こそが一番の伝達手段。今こそ、それを自覚し、感動しよう!
齋藤 正行様  シネ・ウインド(青山76期)

支援者の皆さま

文様に導かれた旅。映画『フィシスの波文』上映応援プロジェクト
クラウドファンディングでご支援くださった方々

READYFOR プロジェクトページ https://readyfor.jp/projects/physis_movie
ご支援募集期間:2024年2月15日9:00〜2024年3月31日 23:00
支援者数:188人
2024年3月31日 5,875,000円(達成率195%)

本当に多くの皆様から、ご支援、あたたかい応援、励ましのお言葉をいただき、
誠にありがとうございました
(支援者様一覧・順不同) ※ご希望の方のみ掲載しております

  • 高見啓子
  • うちだもとこ
  • 五十嵐奈穂子
  • MasakoK.
  • 自然農法無の会宇野宏泰
  • 城井文
  • 杉本歌子
  • 萩原美貴
  • 吉川浩満
  • 國枝真由美
  • かわなみたくと
  • 佐伯雅視
  • 山口智美
  • 杉本節子
  • 成田典子
  • 渡辺政次
  • 渡辺香里
  • 高山千佳子
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  • 松丸亜希子
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  • まつながのぶこ
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  • 野口久美子
  • 梅若堯之
  • 島田美紀
  • 高橋慈正
  • 小川敦生
  • 川那辺乃生
  • (有)アプローチ・河内理恵
  • 株式会社カッシーナ・イクスシー浜瀬亜美
  • 渡辺英美子
  • 越野泉
  • 吉田理恵子
  • 市丸美和子
  • doorknob.design
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  • 倉澤範子
  • 高朝子
  • 宮嶋哉行
  • miemiya
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  • 伊藤結
  • 海津ゆりえ
  • 北浦康司
  • MK
  • 神坂直子
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  • 中島圭子
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  • 株式会社くさかんむり相良育弥
  • 宮崎洋一
  • 村井尚子
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  • mt&st
  • 片野奈緒美
  • 髙木舞人
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  • かおるT
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  • 苅田久美子
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  • 韓亜由美
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  • 小島雄二
  • 福冨岳・雅美
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  • 浅井大河
  • 松尾明莉
  • MichiyoTsuda
  • S.Mashi
  • 長艸真吾
  • IkukoSEGUCHI
  • 益岡了
  • 株式会社マザーテラス
  • 須藤伊世
  • 山野はな
  • 森口ゆたか
  • 吉川成
  • 宮﨑俊英
  • 松本明
  • 宮越紀袮子
  • 五十嵐裕恒
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